なんとも退屈な本である。イギリスの超高級ホテルマンが、お客から沢山のお金をもらって、いかにサービスをつくすのかとめんめんと書かれてゆく。しかしその本を読んでる時の退屈さは大金持ち特有退屈さに似ている。お金で何でもなると思うお客たち。その退屈さが妙にリッチな気分にさせてくれる。毎晩、どこで読み終えても、いつ寝てもいいや、ホテルにいるような気分にさせてくれて、退屈な本だなと思いながらぐっすり寝させてもらった。読み終えた時に、ああこの退屈さともお別れかと変な名残惜しさを持ってしまう貴重な本である。
それにしてもホテルと旅館の違いは、ホントに文化の違いを感じます。ホテルは要求に答えることに万全をつくし、要求しなければ何もしません。旅館はまず部屋に入ると、お世話係りがお茶を入れてくれて世間話ですから、サービスは向こうの方からやってきます。ですが、夜タバコを切らした場合などは、断然ホテルですね。電話一本すぐ持ってきてくれます。ほんと要求には対応しますね。
先日スペインにホテルに泊まった時も、クーラーが送風になっていて良く効かなくて、部屋を変えてくれと要求、速に対応して部屋を変えてくれました。要求に慣れてるんですね。フロントで葉書は出せるし、レストランの予約もしてくれます。ホテルは要求を楽しむ所かもしれません。旅館はもてなしを待つ楽しみですかね。権利を主張することになれてない奥ゆかしい日本人は、この本に出てくる大金持ちやVIPとよばれるお客の要求に驚いてしまいますよ。部屋に大型テレビを置いておいてくれ、動物のらくだをあずけられる所をさがしてくれ、フランスに腕時計を忘れたからとってきてくれ、アメリカのその日の朝刊が読みたい、そこはイギリスですよ。そのために新聞をコンコルドに乗せるというんですから、要求する方も気持いいでしょうね。超高級ホテルとなるとそれに答えるしっかりしたコンシェルジュという要求受付係がいるんですよ。これはもう要求を楽しんでるとしか思えません。お金でサービスを買うんですね。世界には桁違いの金持ちがいて、余った金を使えるようになってるんです。私としては、フランスに腕時計をとりに行く立場でいいですね。そして体調をこわしたといってフランスで2、3日遊んできますよ。
お客に不手際がなかったか連日ミーティングを開くホテルマンの総支配人は言います。「部屋に金を払う客には完璧な状態の部屋を使う権利があり、ホテルはそれを確実に保証する義務を負っているのだ」権利と義務ですよ。イギリスですね。召使いのいる国ですよ。権利と我が儘の違いが分からない私にはやっぱり曖昧な旅館で、布団を敷いてもらう方がいいかな。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '98年10月号掲載)