本屋でhow to物の本を買うのは恥ずかしい。特に、生きるヒント的な本は「この人ダメそう、友達もいないのかしら」と店員さんに思われそうで、自殺する覚悟でもない限り、レジには持っていけない。実際悩んでいる方には申し訳ないが、そういう直接的な本で解決しようとするのは安直そう。それならドストエフスキーでも読んだほうが賢そうな気がする。
そんな事を言いなが「うまい!と言われる文章の技術」なる本をレジに持ち込んだ。ちょっと恥ずかしい。文章を書くテクニックを身につけて「うまい!」と言われても、どうも底が浅くて、うわべ人間と思われそう。それが恥ずかしさになっている。それでもこの本の「はじめに」の中に新聞記者四十年続け、何がなんでも書き上げてしまう方法が身についた。少しでもお役にたてばと筆者の謙虚な姿勢がみえる。よしよしこれならば、自分の知らない世界がかいま見れるかも知れない、渾身の勇気を出してレジに向かった訳だ。中を開けば意外にオーソドックスな文学者。のんびりほんわかモードにさせてくれました。
以下、わかりやすい文章の基本5W1Hの型にはめて、この本を手にしたいきさつを書いてみますかね。新聞社に入社してまず教わる事だそうです。
まず、「いつ(when)」。これは5月14日。なぜしっかり覚えているかといえば地方にいたからです。あららもう「どこで(where) 」になっちゃった。大阪でシティボーイズのライブがあって、空き時間にぶらぶら本屋に立ち寄ったわけです。ライブはどの会場も満員御礼ありがとうございました。えーっと横道にそれました。「だれが(who)」は私で、「なにを(what)」は本を買ったですか。そして「なぜ(why)」、これが文章を書く上で一番大切な事とこの本の筆者は力説しております。ここで「なんとなく」と書いたら最低な文章になるでしょうね。いやいやなぜはあるんです。ライブ中は舞台に頭が集中していて小説も読みたくないし、一人の人の書いたエッセイもかったるい、ライブの時は他人の考え方なんかどうでもいいと言う気分になるんです。この本なら、いろんな例文のための雑文が読めそうだ。自分の意志が入らずに文が読める。この感覚は旅行社のいいなりに旅をするのに似て、たまにはすると心地よいものです。これが決定的な理由でありました。そして最後の「どのように(how)」は、先に書いたように恥ずかしそうにです。
筆者も結論的に言っております。良い文章を書くためには本を読むことですって。そういう事です。自分の中身と発想を磨くことなんです。どんな文章でもよしということで、私の文章読本でした。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '98年7月号掲載)