今朝の新聞に「サラリーマンにだけはなるなよ」と息子に言い残して自殺した仕事人間の記事が載っていた。朝六時に起きて野菜ジュースと栄養ドリンクを飲み走るように出社する。自分のためならいざしらず、会社の利益のためにどうしてサラリーマンは毎日こんなことができるんだろう。
今度、地方局で「サラリーマン研究所」という番組が始まり、ちょっとサラリーマン出世物語でも読んでみようと「勇気凛々」を本屋でみつけた。おもしろいジャンルの本があるもんだなあ、こういう本を熱血サラリーマンは読んでるのかしら、仕事仕事で成功した人はよろしいが、挫折したらこりゃまた自殺が増えるぞと、いらぬ心配をしてしまった。
番組のほうは、サラリーマン経験のまったくない私と自由人の作家・えのきどいちろう君とで、いろんな職種の若いサラリーマン三人に話を聞くだけのシンプルな構成。サラリーマン素人の私が言うのもなんだが、皆さんそれほど難しそうな仕事はしてらしゃらないご様子。基本は物があってそれを売る、売れる商品を開発するということ。皆さん生き甲斐は商談が成立した時と言うが、その顔はちょっと苦々しい。本音はお金のために働いているとおっしゃる。お金のためならば、それを使う時間があれば結構なことだが、その時間も仕事に費やすなら、もうなになんだかわからない人生になってしまう。やりたくない仕事でも、やりたい仕事だと自分に言い聞かすしかなさそうだ。
この本の主役の社長さんはマスコミ関係の営業の仕事から、一転して自転車を扱う商売を始める。これも、もともと自転車が好きであったとかはいっさい関係ない。たまたまそういう話があって、利益をうみそうだからという、まさに商売として自転車を選んでいる。サラリーマン的資質を持った人はこういう所がすごい。好き嫌いは二の次。そして、己の手腕で大会社にしてゆくのだ。当然会社の商品は付き合っていくうちに愛着とかでてくるであろうが、まず最初に自分が売りたいものありきじゃなく、利益ありきなのだ。つらいだろうなと思ってしまう。そして多分そのつらさを吹き飛ばすものが、世に認められ大成するんだという野心。この野心が社長になるかいっかいのサラリーマンで終わるかの差なんでしょうね。でもこれは持って生まれたもんだからね。
サラリーマン生活の人を信用する、あるいは信頼されるというドラマチックな人間関係はおもしろそうだなと思う。商品はどうあれ、まず人を信用する。そして信頼される人物になる。やはり商品は手段で、人間関係がサラリーマン生活の醍醐味なんだろうなと思いましたよ。サラリーマンは気楽な稼業ではないんですな。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '98年6月号掲載)