この本、出版業界の様々なジャンルの人達の仕事ぶりが分かるようになっている。編集後記を読むと「本の雑誌に連載している匿名座談会をまとめたものである」とある。知らなかった。単行本になるような座談会なら衝撃的な出版業界の裏話が聞けると思ったのですが、いささか拍子抜け。出版業界のどのセクションも金銭的な話が必ず出てきて、ギャラが安いとぼやいていらっしゃる。しかし、出版業界たずさわる百人以上の現場の生声を聞くと、つくづく出版物は商売なんだなと言うことが構造的にわかります。出版社営業の方々も大変なのですな。全国各地を回って、仙台はホテルをとることが大変な事もわかりました。
本の装丁家たち三人の座談会では、版元側は売れないと装丁のせいにするといい、一に著書、二に装丁、三に内容と言い切っていると言う。なるほど、私の場合もこの本をシンプルで素敵な装丁で買っちゃた訳だもんな。
私がこの本を手にしたもう一つの理由は、なぜか人の話を遠くから参加せずに聞いているのが好きなんです。特に著名人とか評論家でなく一般の人の会話が好きですね。電車のなかで聞こえてくる断片的会話や、サウナでオヤジさん達四、五人の会話おもしろいですね。決して聞き耳を立てている訳じゃないんですが聞こえてくる奴です。オヤジ達は、どこどこでうまい焼酎が手に入ったから今度持ってくるよとか、その場にいない人の話、競艇のレースを実況中継のように話す人、イメージが広がって、自分とは全く違う世界はなんだか心地良いのですね。お互い丁寧に話しているんですが、人間には微妙な上下関係があるのも不思議ですね。もし、町内議会や同窓会など人が集まる所にカメラが据え置きにしてあるダラダラとした番組があれば、私は真っ先に見るタイプでしょうな。
この本も裏話を聞こうという視点でなく、人間を観察しようと気分切り替えると面白い話がゴロゴロ転がってます。そして裏話も生き生きしてきます。みなさん自分の仕事に自信があって、とても客観的。
私もこの文章を書くために、バラバラと座談会にはつきものの(笑)という所を拾い読み直してみますと、この(笑)はやはり本質をついた意見が大いいですね。一般論からもう一つ飛び越えると(笑)になるんですね。そしてこの(笑)の部分は座談会参加者の共通認識であり共通経験だったりして、どんな人物なのかイメージしやすいですね。
出版業界の事はこの本でだいたいわかりました。さてこれからコメディアンきたろうは(笑)の 研究をするかな。誰かが喋って「いいなあ」で(笑)になるわけですから、笑いの奥は深そうです。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '98年4月号掲載)