この作家、ラテンアメリカ文学の旗手という。そうかラテンアメリカか、よく聞くがどのあたりをさす地名なんだろう。そして「パタゴニア・エキスプレス」のパタゴニアも名は聞くがどのあたりなんだろう。幸い本に挟まれ南米の地図がついてる。見知らぬ土地を確認しながら、のんびり本で旅でもするかなという気分で読み始める。
ところがその旅は、母国チリには帰れない旅であった。アナーキストととして国を脱出するように出て、祖国に受けいれらたのが9年間後。旅をするというより根無し草の放浪であった。その視点で、ラテンアメリカに住む人の陽気でちょっとアナーキーでホラも吹きそうな人間性がエピソードとともに書かれてゆく。
冒頭の話が、まだよちよち歩きの頃から祖父の悪知恵で、炭酸飲料やらアイスクリームで腹をふくらませられ、教会の扉に放尿させられたという、なんとも可愛いアナーキストなんだろう。祖父も子供っぽい。その後の司祭との喧嘩を楽しみにしていたというのだから。これがラテンの血かいなと思わせる。
ちなみにラテンアメリカとは、メキシコ・中央アメリカ・南アメリカに・西インド諸島などの地域の総称で、スペインやらポルトガル人が植民した所をいうらしい。意外と広いのだ。パタゴニアは・・・自分で調べなさい。明るい言葉の響きですが、政治犯などの流刑地でもあったそうです。
こう見えても私はメキシコとブラジルには行ったことがあります。ブラジルのサンパウロではドラマの撮影で、現地のドライーバーさんを雇ったんですが、朝八時の集合にどうしても来ないんですよ。一時間以上も遅れて、どうしたんだと聞けば「友達に会ったから」と言う。仕事より友達のほうが大事だと言い張るんです。なんかその文化の違いにドキッとして羨ましいとは思いましたが、こちらとしては仕事が円滑に進まないので、そのドライーバーさんにはやめてもらいました。彼はいつまでも不思議そうな顔をしていました。仕事と友達で友達が大事と言い切れるって凄いですね。まったく違う時間が彼らには流れているんでしょうね。
「パタゴニア・エキスプレス」、一説を紹介すると「一五六二年、サンティアゴ・デル・ヌエボ・エストレーモの南二十レグアのところにある、エンコメンデーロのヘレモ・デ・ウルメネータに委ねられた土地で最初のチリ・ワイン五十樽が生産された」とあって、なんのことやら声に出して読むとあまりの異国に笑ってしまいます。世界の果ての旅は大変疲れました。訳注はあるんですが、海外本を楽しむためには原文って大事なんですかね。日本は俳句を生み出す国。大胆なカットをしてくれないと外国が遠くなりますよ。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '98年3月号掲載)