ICON ニューヨークがそうなら東京もそうとう

「モグラびと」 / ジェニファー・トス (集英社)


 子供の頃多分小学校に入りかけの頃だったと思う近くの公園にまだ潰されていない防空壕がありロウソクを持って友達二三人で入っていく遊びがあった恐くて恐くてたまらないのに入って行くやっと子供が入れる様な小さな穴もあった小さな穴よりしっかり立てる大きな穴の方が恐怖感が残っている大きな穴は誰かいるんじゃないかと足がすくむそれよりなりより暗闇そのものが恐い何も認識できない恐怖その認識が高じてくるともうこの洞穴から帰れないかも知れないとまで思い始める多分78メートルの距離が子供には50メートル位の感覚だった「モグラびと」を読むとそんな子供の頃の恐怖が鮮明に蘇る
 この本は若い女性が実際に地下に潜って地下生活者のホームレスをルポルタージュしているのでスリル満点生々しい声が散りばめられている驚いてしまうのが大都会ニューヨークの地下に3千から5千人のホームレスが住んでると言う事実それも只の地下ではない地下鉄のそのまた下地下6階くらいの所にもだだいたい都市の下がそんなに掘られているというのに驚いてしまうがニューヨークがそうなら東京もそうとう掘られているに違いないそこにはある種快適な空間もあるらしい工事中の作業員が休憩するための場所とかもう使われなくなった地下鉄の膨大な広さのトンネルそこにあるグループはコミュニティを作りあるいは動物のように潜んでいると言う一週間も太陽も見ないこともざららしいほとんどの地下生活者はドラッグかアル中に侵されている「三日やったら●●はやめられない」とかいうそんな生やさしいものじゃないまあそういう人もいるんだが「地下にいると人間は動物になる人間という仮面の下の野生がめざめるんだ」「路上で犬っころを殺すよりもここで人間一人始末するほうが遙かに簡単なんだぜ。殺した後も案外平気でいられる」「欲しいものがあれば殺せるんだ殺そうが殺すまいが、たいして変わらないんだ」どう思います? こういう世界があるという事実完全に人間やめちゃった人達いややめざるをえなかった人達地上でガキどもに殴られたり蹴られたりするより闇に包まれていたほうがよっぽど安心感があるという人もいる
 文明だ経済発展だといって世界が崩壊する時確実に生き延びるのは地下に住む彼らだとも思うが今私たちにできることは何だろうあるホームレスの女性が語っていた「あなた達は救おうとしなくていいんです神様じゃないんだから」私たちのできることは住みかを見つけた人達をそのままに生かしてあげることだけかも知れない

( 協力 / 桃園書房・小説CULB '97年4月号掲載)


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