前回のシティボーイズライブでゴンズイさんという役名があって、思わず手にしてしまったこの本「ゴンズイ三昧」。うすうすは分かっていたが、やはりゴンズイとは魚の名前であった。私たちのライブでは、ゴンズイさんは斎木しげる。布団を回すだけのお祭り「布団祭り」に対抗する、岩を投げるだけのお祭り「岩祭り」の頭首がゴンズイさんだ。もちろんそんな祭り現実には存在しないが、ゴンズイさんとはどことなく愛嬌があって、骨のズイまでゴンさんという感じがしてくるじゃありませんか。岩だからゴン。まあ実にくだらないコントでした。
本物のゴンズイは、なまずとうなぎを合わせたような形をしている。絵を描いてくれてるのだが、大きさがわからない。一度に60匹ぐらい、タコ壺を使って捕れるというのだから、さほど大きくはないだろう。それをゴンズイ汁にして食べるんだと。ああうまそう。他にも、この本では海の幸、山の幸がいっぱい出てくる。もう酒飲みにはたまらん。生唾が出てくるわ出てくるわ。サザエ、アワビ、フグ、カワハギ、タイ、山芋やら山鳥。アジやイワシの刺身はもちろん、すべて捕りたてを食べている。しかも自分で捕ってだ。ああなんという人生だ。
そもそもこのエッセイの作者岩本さんは、TV業界から漁師になった人だという。自分の人生を大きく方向転換できる人は、それだけで私はエライと思ってしまう。一度の人生を二度生きる勇気ある人の当然の海の幸なんだろうな。ないものねだりをしてもしょうがないか。それにしても岩本さんがとけ込んだ房総の漁師町は、自然の恵みを四季折々に満喫して楽しんでいる。遊びながら生きる。まさにこれが人生の基本だな。
遊びながら生きても、生真面目にコツコツ生きても人は死ぬ。漁をしたり宴会をしたりの生活で突然「七月二日、山海丸の親方が亡くなった」と文章がある。なんともドスンと、人生のはかなさを思い知らされる。ああ生きてるうちに、自然と友達になっておかねば、うまい物を食べる恍惚感を味わっておかねば。料亭やスーパーの食物ではダメ。どんなに新鮮であっても、自分で捕ってきた物とは大違い。味が全然違う。
私も釣りにときたま行くのだが、初めて釣ったメジナのおいしかったこと。潜って捕った、やせて小さなウニでも幸福いっぱい、ビールのうまかったこと。山ではタラの芽、自分で採らねばあのうまさはわからない。まだまだ、本当の自然の恵みに出会っていない人、人生は短いですぞ。人間として生まれた以上、野生の血を思いだし、大いに外に出るべし。幸福求めて、チャレンジ、チャレンジ。メイクドラマ。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '96年11月号掲載)