実に、前向きな本である。読んで一週間はハイな気分になれる。なせば成る、誠意と努力で事は成就する。ちょっと大きな目標を掲げて仕事をしてみようかなという気になる。一週間であれ、ダラダラずるずるの仕事嫌いな私をその気にさせるのだから、この「銀座広告社第一制作室」はなかなかの本である。
私は韮崎にあるテーマパーク“パオの村・光の楽園”の片隅に自分のパオ(モンゴルの移動式住居)を建てさせてもらっているのだが、このテーマパーク、テーマがはっきりして無いこともあってなかなか客が入らない。私にしてみれば、客がいない方が閑散として自分の森にいる感じがして快適なのだが、公園自体がつぶれてしまってはどうにもならない。
その公園の管理を任されている人がイベントをやって客を呼びたいというので、私は言ってやった。「やる気だよ、やる気。どんな大物タレントだってよべるよ。どれだけ、その人に惚れているかだよ。心があれば説得できるもんだよ。要はその人に惚れているかどうかだよ。ギャラじゃないよ。誠意だよ。」おお〜何とこっぱずかしい事を言えたもんだ。その時はこの本を読んだ直後で、まだ薬が効いていた。著者のおことわりの「これはフィクションである」という事をすっかり忘れていた。おかげでノーギャラで私が何かやらせれるハメになってしまった。薬が切れた今、めんどくさがり屋の私は物凄く後悔している。現実は惚れていても、大物タレントはそうは引き受けない。
それにしても、この制作室の話しはリアリティーがある。実際にオンエアーされたCMだし、タレントも実名で出てくる。今でも私は8割の真実が含まれていると睨んでいる。楽天家の私は、悲劇や失敗、貧しさには涙しないのだが、勝利とか成功には、よっかたねとホロリとしてしまう。この本は何度かそんなシーンがある。うーん、働くとはこういうことなのか。仕事には一つ一つ終わりがあって、乾杯があリ、喜びがある。あなたそういう仕事していますか。。
今はやる気の方は元の自分に戻ってしまったが、裏の人に嫉妬してしまうほど、働く喜びを充分に教えてもらいました。この業界、タレントを表、制作スタッフを裏と呼びますが、表から見ると裏の仕事の何が面白いんだろうと思っていましたが大間違い。連帯感と充実感は裏の方があるのかも。裏から見ると表の仕事なんぞやりたくもないと思っているんだろうな。実際、裏の人の方が作品の思い入れが強かったりする場合が多い。
しかし不思議なもんだ。政治家しかり、人間は表に行きたい人と裏に行きたい人と何故こうもはっきり分かれるのだろう。表裏一体、この言葉を考えた奴はいったい誰だ。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '96年9月号掲載)