ICON 少年の父は働く

「豚の死なない日」 / ロバート・ N・ペック(白水社)


 が大流行。がペットになったり、豚Tシャツ、豚とつくタイトルの本が売れている。うとは知らず豚本を2冊買ってしまった。『豚の死なない日』と『豚の報い』。イドショーで紹介されたのは、らもさんの『ガダラの豚』も入っていたが、らずに豚本を全部読んでいたとは、何と私は通俗的なのであろう。
 りあえず本屋で、豚という文字は目に飛び込んで来る。蔑用語であると思うのだが、「ブタ!」とはっきり言われると、それ以下がないような気がしてどこか潔い。「イヌ!」とか「イタチ!」と言われるより、よっぽどいい。っとも妻から豚と言われて、離婚した夫婦を知っているのだが。
 いう訳で今月は『豚の死なない日』。をペットとして飼う少年と家族の話。うにも切なく、哀しく、凛々しい、素敵な本だ。駄がない。読み終えてページを適当に開いても、部分から全体が見えてくる。承転結のある本に久しぶり出会えたという感じだ。
 白いのは、家族といっても母親はほとんど出てこない。と子の関係だ。れはゴリラ社会に似ている。リラはオス1匹にメスが数匹で群をなしているのだが、スは最初の3年間は子育てをして、母親から1匹のメスに戻ってしまうらしい。の教育はオスがやる。リラのオスは偉いのだ。は言っても、ゴリラは1日の大半は寝ているのだが。
 この少年の父は働く。豚を殺すのが仕事だ。段平気で食べている豚や牛が、屠殺する人がいて口に入るのだという強烈な認識を持ってしまう。業に差別はないというが、進んでやる仕事とそうでない仕事はあるだろう。の仕事をやらなければ生きていけないという状況は辛い。かし、父は今おかれている状況、生きていく手段を全て、死さえ、子に話し、教える。は親の背中を見て育つと言われるが、の少年は父を正面から見て育つ。
 たして私は子に何を教えたろう。りを持って言える事は何もない。が子は高校生で、スキンヘッドに飽きたかと思えば、黒人をまねて頭をちぢり毛にしている。とほと情けない。生きるという事がどういう事かわかっていない。あ自分にも分からないんだからしょうがないか。底的な放任状態。親がギャアギャア騒いでいる。
 度、高校生殺人について息子に聞いてみた。ぜそんな事するのか、君はどう思うと。って来た答が「バカなんじゃない」それだけだ。の解決にもならない。「親とか社会が生命の尊さとか教育しないからだ」とか返ってくれば、深く反省するつもりだった。は子を信頼はしている。が今一度、男はゴリラのオスに戻る時期に来ているのかもしれない。

( 協力 / 桃園書房・小説CULB '96年5月号掲載)

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