ICON 松食い虫に食われる松だ

「ホット・ゾーン」(上・下) / R・プレストン(飛鳥新社)


 間は必ず死ぬ事は分かっている。のに、どうしてリアリティがないのだろうか。
 気になると、その恐怖は突然やって来る。ころが治ってしまえば、死は身近な所から遠く離れた、ただの概念になってしまう。内や他人の死は地上から消えたという妙なリアリティがあるが、恐怖の実感がなく、死を自分の事としてとらえられない。は馬鹿なのだろうか。
 ぜ、死にリアリティがないのか。は分かった。れは、人それぞれ死に方が違うからなのだ。し、全人類が老衰で死ぬとなれば、他人の死は自分の死として、確実に認識できるんではないだろうか。ころが、人は突然死ぬ。通事故、ガン、エイズ、戦争。分はどの死に方をするのだろう。の死に方も自分とは違うような気がする。の気持ちがリアリティの欠如になっているのだ。
 や、違うな。私は死のリアリティを持ちたくないのだ。ぬと分かって、何もやることがないと分かった時、その情け無さは極致に達するに違いない。のために生きて来たのか、死を自前にして「温泉に行きたい」では可哀相過ぎる。から私は死を予告して欲しくない、リアリティのないまま死にたい。〜ムこれが本音だな。
 生、なぜこんなにも情け無い自分を自覚しなければいけないんだ。の『ホット・ゾーン』がいけない。応なく死について考えさせる。イズよりも恐ろしい、空気感染するかもしれないウイルスが地球上に存在し、人類絶滅の危機と煽る。「これはノンフィクションである」と始めに断ってあるのでそうなのだろう。の死に方が壮絶だ。の本では「炸裂」という言葉を使う。という穴から血を流し、目、鼻、乳首からさえ、血とともにウイルスが飛び出して来る。間が内側から食われるのだ。やだよ、勘弁してくれ。
 んな空気感染するウイルスをどうやって防げばいいんだ。の作者はなぜ黙っていることができないんだ。ってどうなる。バカタレ!かこれは映画の脚本だと言ってくれ!
 かし、人類にはいろんな人がいる。のウイルスと感染する事を恐れず立ち向かう医学者がいるという事実だ。にはウイルス好きとしか思えない。と正反対にいる人種だ。ういう人は死に直面しても温泉に行きたいなんて言わないんだろうな。「やり残した事がある。人類を救うのは私だ。このウイルスの殺戮の全貌を知りたい、無念だ」パタッといくんだろう
 当に生きるって何でしょう。は決めた。松食い虫に食われる松だと思う事に
、松も内から虫に食われ、パタパタと倒れている。は自分の死を知っているんだろうか。まじ知恵があるからいけない。んな本読むんじゃなかった。は松だ。

( 協力 / 桃園書房・小説CULB '95年6月号掲載)

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