シティー・ボーイズライブの東京公演が終わった。ライブは楽しい分、その反動で虚脱感やら肉体的疲労で頭がウニ状態になる。最近は偉そうになって、客に見られてると言うより、お客様に見せて差し上げるといった感じに、精神が能動的に変化して来て、なんだか異常にエネルギーを使う。まあ、これがプロということかも知れないが。
エネルギーを放出し、お客に吸い取られ充電切れ状態、脳味噌も水分切れで、ふらふらと本屋に立ち寄った。次の大阪公演に向けて充電する必要がある。
素敵な本が見つかった。40半ばの男が買うのはちょっと恥ずかしい、吉本ばななの本。しかし照れてはいられない、今の俺には瑞々しさが必要だ。「私のこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。」で始まる「キッチン」で信用している。彼女には、ベタべタしていない優しさと、さらりと押さえこむ確実な説得力がある。一度もお会いしていないが、お父様には学生時代、講演を聞いたり「共同幻想」でお世話になり、私をお笑いの師匠と仰ぐ松本小雪が仲良しと書いてあり、なぜか親しい感じがする。
『マリカの永い夜』は、神々が住むと言うバリ島熱にやられちまったばななさん、苦心の作といった所か。発想が面白いだけに、う〜むちょっとネ。マリカという少女の中にいる数人の人格。誰もが傷ついたマリカに優しい。1人1人の人格がマリカに統合され、最後に残るのがオレンジと呼ばれる少年。バリ島で心が解放されていく様は読んでいて気持ち良くなれるのだが、おじさんとしては精神科医とマリカとの具体的な葛藤がないのが非常に不満になってしまうんだな。それがしっかり書かれていればもっと気持ちよくなれるのに。でも、「水の中で、オレンジが笑っていた。きれいな笑顔だった。マリカの顔で。」という鮮烈な文に出会えたから、それはそれで良しとするか。
私のエネルギー充電でいえば、、『バリ夢日記』の方が役だった。彼女が神々の夢を見たり、海にプールにレストランに買い物に浮き浮きしてる様は、自分がバリに行った時の事を思い出させてくれた。期せずして同じホテルに泊まっている。プールの真ん中にカウンターバーのあるクタのホテル。はしゃぎにはしゃいだっけ。大の大人が、プールでシュノーケルなど使ってヒンシュクを買ったりもした。彼女のおかげでケチャの音楽と濃密な時間を蘇らせてもらった。お前の飛び方は拷問を受けている様だと言われたパラセイリング。クタの海に入るのに入場料を取ろうとした悪ガキ共。日常を吹っ飛ばすヤモリのでかさ。次々に浮かんで来る。
よし充電OK! 時には、こんな本の読み方もありだな。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '94年7月号掲載)