ICON 大人の童話

「悪童日記」 / アゴタ・クリストフ(早川書房)


 「この本は面白いよ」と他人に言われてもなかなか読む気にならないものだが同じ日に全く別の人から同じ本を勧められるとムムどんな本なんだろうこの口コミを止めるも蔓延させるもオレ次第だなという気になってくる
 この『悪童日記』は作者が女性という事もあってか口コミは女性の方から流れて来ているシティボーイズライブの稽古であの大竹が稽古もせずにひたすら本を読んでいるもともと我々の稽古は無駄話が8割でダラダラ時間が流れていって解散といった余程厳しさに欠けたものだが話に加わらない大竹も珍しい「なんの本だ」と聞けば「いや女房に勧められてねなんだかわからんが面白いんだよ」と言うそして我が家に婦ってみるとその本がテーブルに置いてあった「どうしたんだ」と妻に聞けば友達が読んでみろと置いていったというなんとも恐ろしい偶然どうしても読めといっているようだまさか大竹の女房が何10冊も買いあさってばらまいているとは思えない確かになんだかわからない面白さがある意味がわからないという事でなく説明しづらい面白さなのだ感動がある訳ではないが妙なすがすがしさがあるハンガリーの戦時下という悲惨な状況でありながらも悲しみは湧いて来ない内容は奇想天外な要素が含まれているのでこれから読む読者のためにも語らずにおく
 文章が感情を書かず事実のみを書くといった手法をとっているのでつっかえる事なくスイスイと読めてしまう大人の童話といったところか愛のある非情さが全編に流れている双子の少年が主人公なのだがこの2人は大人になってゴルゴ13になってもおかしくない非情である事が実は深い愛であったりする事はよくある情けは人のためならずだ確かに情を施すのはたやすいが行動に移すのは難しい行動に移せば自分の身も危うくなるからだ情けをかける代わりにその人を殺してしまえばその人は悲しみから救われるだが論理は大きく飛躍しているでも何だかすっきりするそうした単純な残酷がこの本にある
 情の最たるものが男女間の営みであろうがこれもまた情なしで欲という事実をタンタンと書かれると意外と興奮する「行かせて!」と言われてそのまま天国に行かせてあげたらこれまた論理は飛躍しているがすっきりするまあこれは本とはまるで関係ない話であるのだが……
 こうした本が女性達に読まれていることも現実欲求不満の女性心理の一面が覗けて背筋がゾクッとするものがあるダメな人間はダメと言いきる力は女性の方にこそあるのかも知れない

( 協力 / 桃園書房・小説CULB '93年4月号掲載)

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