街の小さな本屋さんの新刊コーナーに読みたい本が出てると、何の迷いもなくさっと買えるのだが、そこに読みたい本が見つからない場合、棚の方に回る事になる。これがやっかいだ。なにしろ選択する材料が多くなる。これがまず面倒。それに、棚から選ぶ場合は、レジに本を持っていった時にその人の生き方や中身が見透かされるんじゃないかといった恐怖がある。当りハズレはあるかもしれないが、新しいから買うんだよといった大義名分なしの本選びは意外と苦痛なのである。これは、CDを買う時にも言える事で、情報なしで音楽を選ぶとなると途方にくれてしまう。そこで便利なのが、店長のお薦めという奴。まあまあ、ハズレがない。ハズレても怒りのはけ所がはっきりしているので気が楽だ。「店長のバカヤロウ、お前なんか絶対信用しない!」と人のせいにする事ができる。ぶらり飛び込むどの本屋さんにも、店長のプライドをかけた「店長のお薦めコーナー」を設けるべきだと思うのだが、いかがだろう。そうすれば本を買う側の責任も軽くなる。ウムウムそれはいい。今、国会中継を見ていて、質問ばかりでなく提案をしなくちゃダメじゃないかオタンコナスと思ったもので、ちょっと提案する物をしてみました。かくの如く、人間すべからく単純に生きよ。
さて、『シコふんじゃった』はその棚からラッキーといった感じで選んだ。この映画を見た友人から面白いという事を聞き、映画館に行こうと思い立った日には終っていて、頭のどこかにひっかかっていたのだ。つまり、なあんだ、本になっていたんじゃないかといったラッキーさである。幼少の頃から紙相撲を作って1人トントン土俵をたたいていた、大の相撲好きの私が見のがす手はない。ところであの紙相撲だが、横綱はどっしり下半身を安定させるため、土俵との接触面をとてつもなく広くして、絶対倒れないように作るのだが、それでも負ける事がある。全く相撲は何が起こるかわからない。そして、その時の悔しさは紙相撲をやった奴にしかわからない。オレはすぐ引退させてしまった。
この本でも、何が起こるかわからない、その相撲の面白さがふんだんに出てくる。なにしろ、わんぱく相撲にも負けてしまう大学の相撲部が優勝してしまうのだから、登場人物がいとおしい程にかわいい、「気持ちいい」という気持ちを誰かと共有できるということが、さらに「気持ちいい」のではないかと思ったのである。お金は分かち合うと減るが、喜びは分かち合うと倍増する。そういうことだった。そう、そういうことだ。大相撲で、同部屋が戦わないのもそこにある。若貴決戦はあってはならないのである。
泣けて、満足、満足。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '93年1月号掲載)