今現在、俺の頭の中にはタップリ2時間の膨大なセリフが入っている。いとうせいこう書き下ろしの1人芝居のセリフだ。全くとんでもない物を引き受けてしまった。この芝居はもう単行本になっているので、毎日この「ゴドーは待たれながら」の本を読んでいるようなもんだ。他の本を読むと、その活字に今まで覚えたセリフが頭の外に追いやられそうな気さえする。脳味噌からセリフがこぼれないように、頭にグルグル包帯を巻きたい気分だよ、まったく。この歳になって、なぜ受験勉強みたいな事をしなきゃならないんだ!まあ、ここでぼやいても仕方ないことだが……。
そんなこんなで、気楽に愉快に楽しそうな本を読んでみようとこの本を読んだ。「青春デンデケデケデケ」。帯に映画化決定と書いてあるが、もう映画になったのかしら。そんなことはどうでもいい。このコーナーは、別に新刊を読むと俺は誰にも言ってないんだから。どうも今日は気が立っているな。この本の主人公達みたいに爽やかに、素直にならねば。
いわゆる青春小説だが、実に懐かしく読ませてもらった。作者が俺と同年代という事もあって、高校生の頃の時代が蘇ってきた。まっさきに蘇ってきたのは、この本にあるベンチャーズブームはもちろんだが、この手の青春小説をあの頃よく読んでいたなという事だ。読みやすい活字で、学校生活を題材にして、ちょっとHで、笑えて、ほとんどが恋愛を扱い、今でいうマンガを読む感覚で読む本だった。文学を気取ってなくても、ビリビリと感受性をくすぐられたもんだ。たぶん、この作者もその頃の本を読んでいたんだなと察しがつき、読みながらもいろいろ共有できるものがある。
物語は、文化祭でのロックコンサートへ向けてグイグイ進んでいくのだが、ちゃんとクライマックスが用意されている。成程、映画化されるわけだ。読みながら、涙がジンワリ出てくる。この歳になって、なんで泣いているんだお前は!と情けなくなるが、情けなくなればなる程、涙の量は増えていく。一生懸命は感動の原点だ。ガンバレよ!灰になるまで燃え尽きるんだ!明日のジョーよりかっこいいぞ!とかなんとか、冷静である頭の片隅で、そうです、まるで柱の陰でそっと応援しているような、そんな自分に気づくのです。そして、読んだ人しかわからない事だが、三田明の「美しい十代」の処理の仕方がなんともいいじゃないですか。これが昔の青春小説とは一味違うものとして、俺の頭にタンコブとして残る様な気がする。
さて、書き終えた。頭のセリフはこぼれていないだろうな。よし!俺も青春時代に戻って、1人芝居で燃え尽きるか。すなおさん、勇気をありがとうよ。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '92年9月号掲載)