お隣で、お書きになっている井筒監督が、映画の撮影中で試写会を見逃してしまうという事だが、私も映画の撮影中で本を読むのが、かったるい。実は何を隠そう、同じ映画を撮っているのです。緒方直人主演の「東方見聞録」。シネマ・スコープと言うことで、アップになれば、それでなくとも横に広がっている私の顔が、ビロ〜ンとますます広がるんじゃないかと心配であります。現場では、監督の馬力が皆に伝わるといった感じで撮影は進む。監督から素に戻った時に聞いた。「やっぱり、どこかで妥協する訳でしょう、その見極めが大変でしょう?」と。監督はキッパリと言う。「オレは妥協しない」。オイオイそれじゃ役者は殺されちゃう。よく聞くと妥協はしないが納得をするのだという。そう言えば現場での頭の切り替えは速い。長いシーンを撮り終えて、柴俊夫がヒゲをつけ忘れていた事に気づいた。監督はしばらく考えて、「よし、前のシーンで剃ろう。その方が迫力がある。その方が断然いい。このシーン、OK!」まさに、妥協でなく納得である。この私好みのいい加減さで、撮影快調、乞う御期待!
今月の本は、映画監督もしている村上竜さん。「リュウズバー」では、2度程お世話になった。竜さんの実像は、田舎のおじさん風な土着性があって、うまく気取れないタイプ。しかし、活字になると豹変する。文章の端々にサデスティックなカリスマ性を発揮する。
この本は、いかにスケべに徹しきれるかといった本。究極のサド、マゾショーが展開する。スケべに究極はないかも知れない。竜さん、有らん限りのスケべを考えたといった所か。読み終えて、いっちょ私も滅茶苦茶サデスティックなSEXをしなきゃいかんかなという気にさせる。どっちにしろ、実際にしてしまえば、とてつもない無力感が襲う事が分っているので、本とかイメージで遊ぶ方がいいのかも知れない。イメージで遊ぶといっても能力差がある。私が思いつく事といったら、女の尻を数10個並べ、尻やらお○○こに、生きたサンマやら諸々ぶっ込み、私の一物も、ちょこっと入れさせてもらうといった程度のもの。しかし、考えているうちに、これは因幡の白ウサギかなと思って、笑ってしまう。この本もバイブのクソを舐めたり、スイミングキャップを被せて、ムチで叩いたりと凄いのだが、どこか滑稽さが滲み出てくる。インテリの限界か、そもそもSEXは滑稽なものなのか、どちらか分らない。圧巻は精神科医ハタケヤマの独白。どんなSEX描写より、グロテスクで笑える。
最後の方で、主人公が、「スノッブなメタファーなしでダイレクトに話ができないものだろうか?」 と思うくだりがある。そして私も、そんな小説を竜さんに期待してしまう。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '91年11月号掲載)