ICON 「情熱の薔薇」を歌って

「やし酒飲み」 / エイモス・チュツオーラ(晶文社)


 きのう、南の島沖繩から帰って来た。風まかせのヨットの上で、沈む夕陽をバックにサングラスをかけ、ビシッとカメラにおさまった。海と夕陽とヨットと私、そこにはミスマッチはない。ただし心の中だけ。外見上の事は知ったこっちゃない。海の風をあびて、世の中にこんな気持ちのいい事があるのだろうか、今までオレは何をしてきたんだという感じだった。今度、絶対にヨットを持っている人と友達になろう。買おうと言えないところがどうも私の玄海灘であるのだが、とりあえずのターゲットがタモリさん。持っているんですよあの人。イグアナとヨットじゃ、まだ私の方がましというもの。乗れたら、次の回で、報告します。
 というわけで、今月読んだのが、この「やし酒飲み」。アフリカの文学なのだが、海の上で、やることなくただ漂って余暇をすごすなんてものじゃない。とにかくデタラメな生活から始まって、デタラメな物語が展開する。書き出しが凄いので、ちょっと紹介しちゃう。
 「わたしは、10になった子供の頃から、やし酒飲みだった。わたしの生活は、やし酒を飲むこと以外には何もすることのない毎日でした。……父は、わたしにやし酒を飲むことだけしか能のないのに気がついて、わたしのため専属のやし酒造りの名人を雇ってくれた」
 オイオイ、酒を飲むことしか能がないからって、専属の酒造りを雇うなよーと、思わず吹き出してしまう。そして、この男、1日に大量のやし酒を飲んで15年目、酒造りの名人がやしの木から落ちて死んでしまう。しかしやし酒が飲みたい一心で死んだ酒造りの名人を捜しに森林に妻と一緒に旅に出る。ここから話が始まるのだが、もうめちゃくちゃ。とにかく死んだ奴を捜すわけだから、「死者の町」はでてくるわ、森林には笑っちゃうしかない化物が出てくるわ、事件はすぐ解決しちゃうわ、書きたいほうだい。なにしろ途中でバクチにまけて「死」を売っぱらっちゃったりするんだから、怖いものなしのデタラメ。危険があれば、妻を小さな人形にして、ポケットにいれちゃったりする。ほとんど子供の発想。
 訳者のむすびを読めば、諸外国で評価されているという事だが、そこから意味を汲みとろうとするなど愚の骨頂、子供になったつもりで、作家の自由奔放さに遊べばいい。1946年に書きあげて、日本の初版が1970年というから、読んだ人も多いかも知れないが、今読んでも楽しい。いや、死後の世界とかチャネリングがギャアギャア騒がれている今こそ、この作家を教祖と崇めて、そんな世界をデタラメにしてやりたいと思ってしまう。そして勿論、お題目はブルーハーツの「情熱の薔薇」を歌って! ♪見てきた事や聞いた事、今まで覚えた全部、デタラメだったらおもしろい〜♪

( 協力 / 桃園書房・小説CULB '91年10月号掲載)

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