先日、NHKの特集で中田英寿のインタビューがあった。ちょうど「鼓動」読み終えたその日だったので、情報というのは気にしてると向こう側から寄ってくるんだなと不思議な感覚になりました。
テレビのインタビューに答える中田君のすがすがしいこと。自然体で気負いがありません、マスコミ恐怖症からか言葉を選んで喋る様子はちょっと痛々しいんですが、背伸びも卑下もしない態度は天才の資質をかいま見るようでした。
その中で彼が「私は自由だ」と将来の可能性について語るくだりは、目が醒める思いでした。ほとんど公人ともいえる束縛の多い中、彼は自分の生き方は自分で決める。最大の努力はするが、それは自分の自由を勝ち取るため、う〜む、自由の重みを感じます。どんな社会的束縛があろうと自由への意志は誰しもが持つべきです。大人になると「自由」という言葉さえ忘れがちです。私も忘れてた。天才から学ぶ事は多いですよ。
この本はライターの小松さんが、膨大な時間と労力をかけて、中田君の素顔とイタリアのペルージャに入るまでのいきさつを愛を込めて綴っています。随所にマスコミとの対応や、中田君のマスコミに口を閉ざす真相が語られます。嘘と真実。自分を虚飾化して、自分とは違う中田英寿が報道された時の彼の憤りと神経がまいってゆく様子は、マスコミっていったい何だろうと考えさせられます。
もちろんマスコミがなければ、中田は多くの人に知られる事にはならないんですが、マスコミの悪意が金を生んでる日本の状況はいかがなものか。雑誌、新聞、ワイドショーにしても、いかにも正当にみえる倫理観と嫉妬で有名人を棚にあげます。今のマスコミは名のある人を襲って食って、のうのうと自分は金を得て、生活しているという構図が浮かびます。一回流してしまえば流し者勝ち。あとの責任はとりません。真実から遠くても悪意と意外性があれば、見てる人は飛びつきます。情報を得る側が賢くならなきゃいけません。人に関する情報の時は、一度はその情報を疑ってみる。めんどくさいですがやらなきゃいけませんね。
この本、大手の芸能プロダクションのマネージャーさんから、会社から読むように勧められていると聞きました。確かに後半に書かれてゆくペルージャに移籍が決まるまでの中田君の女性マネージャーの動きは迫力があります。ぐいぐい引き込まれます。当然中田君は金を産む商品である訳ですが、彼が心の自由を勝ち取るにはどうすればいいのか。まず第一に考えます。目先のお金を考えていたら、心の自由は永遠に買えないということでしょうね。これをマスコミ界に、私は言いたいです。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '99年4月号掲載)