チベット人は、余りにも日本人と顔だちが同じなので、行った事はないのに、 テレビなどで映されるチベットが懐かしく、そこに住む人とすぐお友達になれ そうな気がしてならない。そんな事が頭の片隅にあると、フラフラとこんな本 を買ってしまう。ただ単に、「チベット医学」というタイトルなら読もうとし ない。そこに「明るい」と形容詞がつくと何やらナンセンスな匂いが漂って来 る。誰かが病気になると、飲めや歌えやのドンチャン騒ぎで、医者も妙に明る く、鼻歌を歌いながらメスを持つのかなと思ってしまう。それを期待し、いや それ以上の「明るさ」があるかも知れんぞと読み始めたが、意外や真面目な本 であった。
命とか健康に対する考え方は、国や宗教によってそれぞれ違い、その結果、 どう生きるかも変わってくるという。チベット人の病気に対する、ずぼらな考 え方は、なんだか実に私に似てる。私がチベット人に郷愁を覚える訳が解明さ れていく様で、実に興味深かった。
例えば、病気に対する、治療の姿勢だが、西洋では病に対抗して、病原菌を 取り除こうとし、中国では気とやらで導き、抑える。チベットでは病をだまし だまし治し(患者自身の治癒力を引出す)、、破綻しなければどうでもいい、 病は同居人と考えるという。病を悪魔の仕業とか弱点と見るのとは決定的に違っ ている。死後の考え方も、天国とか神様になるとはチベット人は考えない。ズ バリ! 死後は何もなし。まさに鳥葬の国チベットである。私も死後はどうに もイメージ出来ないので、なしとビシッと決めている。日本人にも、骨は海に ばらまいてくれと言う人は多い。チベット人とお友達になれる種類の人達だろ う。お昼の番組の楽屋で杉兵助さんもポロリとそんな事をつぶやいていた。し かし、これは法律で禁じられているそうだが、おかしな法律のひとつだ。
この著者は実際にチベットのお医者さんで、いろいろ治療法を研究している という事だが、どぎもを抜かれたのが、癌患者をライ病院やライの村に送り込んで ライ病患者にして、癌を治すというやり方。癌のうえに肌までもとは何とも背筋 が寒くなる。しかし、これは、結核菌を植えつけて治すMワクチンと同じ方法 で、成功率は高いと言う。とりあえずは癌の増殖をストップさせる。そしてライ病 を治す。まさにだましだまし治しの真骨頂。しかも、注射でなく、ライ患者の世 話などをして、自然に感染させるというのだから気も長い。
チベットを知れば「私」を知る事になるのか、より一層チベットを知りたく なった。
火曜日の深夜フジテレビで「哲学の傲慢」なる番組をやっているおかげで、 どうにも哲学的になってしまう、最近のきたろうです。
( 協力 / 桃園書房・小説CULB '91年8月号掲載)