ICON ナイスショットは二度続かない

「ボギー・マン」 / ジョージ・ブリンプトン(東京書籍)


この本は、ゴルフを下手なまま楽しむのもまた良しと思えて、切実に笑ってしまう。スポーツライターが、プロゴルフ・ツアーに参加して、自分のゴルフの未熟さを嘆きつつ、実際にあったプロゴルファーのエピソードがふんだんに盛り込まれているのだ。そのエピソードが妙に観念的であったり哲学的であるのが、知的好奇心もくすぐる。
 私のゴルフはボギーが取れたら大喜び、パーが取れたら奇跡、バーディ夢の夢。フェアウェイをボールがキープしていれば、そこにたどり着くまで、天国への階段を登っているような心地良さを感じ、次のショットでは、林の中でウロウロ、地獄を味わっている。ホールごとのスコアーを「いくつ」と聞かれて「いっぱい」と答えることもしばしばだ。この著者もティーショットのボールを見下ろして「ボールをよく見ろコ! 頭を動かすな! 左腕をのばせ! 膝にゆとりを持たせろ! インサイド・アウトにクラブをふれ! フォロースルーを大きく! ヘッドアップするな!」と自分自身に言いきかし、結果はシャンクする。私と全く同じだ。「くそ!どうして、手が縮まっちゃったんだ」もう後の祭りである。なんとゴルフとは情報過多でメンタルなスポーツであるのだろう。すべてを肉化しなくてはダメだと言われても、脳味噌のある文明人には出来そうにない。「ナイスショットは2度続かない」という映画でも作りたくなる。
  この本で初めて知ったのが、「イップス」というプロゴルファーのかかる職業病の事だ。永年にわたるプレッシャーと賭けとストレスで、神経がやられるらしい。2、3メートルのパッティングで、手も足も出なくなりブルブル両手が震え、死物狂いでボールに当てて、その10倍くらいの距離をオーバーさせてしまうという。本当かしら。アメリカ特有のオーバーなホラ話と言う気がしないでもないが、背筋がゾクッとするリアリティもある。テレビに素人が出て、極度の緊張感であがってしまい、ガタガタ震えてしまう光景は誰でも見た事がある。しかし、このイップスに冒されれば、プロ中のプロがやってしまうのである。実に怖い。パッティンググリーンで行ったり来たりする私にはいい弁解ができたというものだ。「イップスにやられた……」とつぶやけば、気分はプロになれる。
 最後に私が一番気にいった話を紹介しちゃう。あるゴルファーが池にボールを打ち込んでしまった。だが側に行くと池から80センチぐらいの所で水深6センチの泥の上に止まっている。彼はペナルティーを払う事なく果敢に挑戦。片方の靴と靴下を脱ぎ、膝の上までズボンの裾をまくりあげ、クラブをうけとって、片足を水中に入れるのだ。しかし、その片足が靴をはいたほうの足だった。極度の緊張感から生れる大ボケに万歳!

( 協力 / 桃園書房・小説CULB '91年3月号掲載)

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