メジナの巻
魚屋さんではほとんど売っていない旨い魚と言えばメジナです。関西ではグレ、九州ではクロと呼ばれているそうです。何を隠そう、私が海で釣った初めての魚がメジナです。
もう10数年前になりますが、あの興奮は今でも覚えています。三浦半島の堤防釣りでした。
私は、他力本願の情けない釣り人でありまして、隣に釣りの達人がいないと何もできません。創意工夫の仕掛けは他人に頼って、釣り糸を垂らすだけ。それでも、魚がかかった時のピクピクした感じはたまりません。想像ですが、女性が感じるエクスタシーに限りなく近いんじゃないかと思います。前戯が長いほど、つまり釣れない時間が長い程、ピクピク感がしびれます。それにもまして自分の釣った魚は最高の味です。自分で漁をした充実感が脳のうま味の部分を刺激するんでしょうか。
メジナがあれほど旨い魚だとは思ってもみませんでした。その堤防にいた見知らぬ方がクロダイ狙いで、メジナなんかはいらないとかで、ありがたく頂戴しましたが、本格的釣り人は、なんて贅沢で我が道をいくタイプが多いんだろうと思ったりもしました。 船釣りでアマダイやカワハギを釣った時も旨かったですね。船からあがって焚き火にあたりながら、どんな料理にしようかワイワイ騒いでいる輪の中から、すうっといなくなる一匹も釣れなかったボウズの人の哀しみも、まさに人生の縮図、釣りの醍醐味です。
東京中日スポーツ掲載