イワシの巻
大人になって、その旨さがわかるのがイワシです。子供の頃は食卓に出てるだけで、情けなくなった魚でもあります。大人になってわかる味と言えば野菜で言えばネギ。湯豆腐のネギにイワシの刺身。ちびちびと日本酒。大人って感じがします。
私は地方に行くと「イワシ専門店」を探した時期がありました。意外とあるもんです。なぜ「アジ専門店」とか「タイ専門店」はないんでしょう。やはり渋い大人の入る店って感じじゃなんですかね。「タコ専門店」はどうでしょう。確かに新鮮なタコ刺しはフグより旨いと思う時がありますが、どうもたこ焼きのイメージがあってダメです。それなら「サンマ専門店」はどうでしょう。秋だけ営業でつぶれてしまいますか。
やはり専門店はイワシです。ですが専門店となると、なんでイワシがと思うほど値がはる店もありまして、大人の証、イワシ通を気取る値段が含まれているとしか思えません。店の主人も専門店顔をしており、「文句があるなら、居酒屋へ行け！」と、たかがイワシ、されどイワシといった気位で、「どうです？つくねの唐揚げは？」と聞いてくる。実は私はつくねはどうも苦手、ソーセージじゃあるまいし、魚をこねるイメージが嫌なんです。しかし、イワシ通の私は「いいですねえ。」と雰囲気をこわさない。粋な大人になりきります。専門店は、店に入っただけで客の方が負けてる感じを持つのは私だけでしょうか。
東京中日スポーツ掲載
