アジの巻
どうも私はアジ好きらしい。幼少の頃から魚を食べるとなると「アジ、アジ」と騒いでいたらしいのだ。実家に帰ると母は「やっちゃんはアジ好きだからね」と朝食にはアジの干物がでてくる。50歳を越えた男にやっちゃんはないものだが、大人になってもアジ好きが変わらないと思ってるのもすごい。自分の記憶をたどると、アジは単に子供には言いやすいからアジと言っていただけで、子供が「サヨリ」とか「イサキ」とか言うのは不自然な感じがするではないか。味覚は大人になって変わるものだということを母を説得するのも、母が「アジ好きだからね」と言う時のうれしそうな顔を見ると、じゃあそうしておこうという気になってしまう。今はイワシ好きなんですけどね。
最近、熱海の干物屋で「まぼろしのアジ」と書かれた干物を見つけた。一枚280円 、なかなかの値段である。丁寧に炭をおこして七輪で焼いた。確かに油がのって美味、初体験の旨さだった。日本酒がすすむ。しかし、その後何度もその店で「まぼろしのアジ」を買ったが、最初に食べた衝撃が二度目からはないのだ。味への期待感が大き過ぎてそう感じるのかとも思うのだが、人間初体験は一度きり。そういう意味ではあのアジ(味)はまさに「まぼろし」だったのかもしれない。
東京中日スポーツ掲載